育成の記録 松添編(10)
『平衡感覚』
こんにちは。松添です。いつもブログを読んでくださり、ありがとうございます。
今回は、数字と感覚の両方を大切にする土木の世界において、最重要キーワードのひとつともいえる「平衡感覚」についてご紹介したいと思います。
皆さんは、平衡感覚と聞くと、真っ直ぐに立つこと、真っ直ぐに歩くこと、左右のバランスを保つことなどを想像するかもしれません。もちろん、土木の現場でもそうした感覚は大切です。
しかし、現場で求められる平衡感覚は、それだけではありません。
土木で大切になるのは、自分が地面に対して、今どのような状態にいるのかを感じ取る力です。
土木の現場には、「均す」という作業があります。
土や砕石、コンクリートなどを、決められた高さや勾配に合わせて整えていく作業です。



このとき大切になるのが、自分の立っている場所や、作業している面が、図面の数字を基準にしたときに高いのか、低いのかを感じ取ることです。
もちろん、現場では測量機器や図面の数値をもとに作業を進めます。
しかし、実際に手を動かす場面では、数字だけではなく、体で感じる違和感や、目で見たときのわずかな差にも気づく力が必要になります。
平衡感覚が問われる作業(一例)
砕石を均す
地面の上に敷いた砕石を、決められた高さや厚みに合わせて広げ、平らに整えていく作業です。
このあとにコンクリートを打ったり、構造物を設置したりするための、土台づくりになります。
砕石は、一見すると平らに見えても、実際には高い所や低い所が出やすい材料です。
そのため、作業する人は自分の足元や道具の動きから、
「ここは少し高い」
「ここはまだ低い」
と感じ取りながら調整していきます。
数字で高さを確認することはもちろん大切ですが、最後は現場での感覚が仕上がりに表れます。
ジョレンで均す
ジョレンという道具を使い、土や砕石、砂などを引き寄せたり、広げたりしながら、地面を整えていく作業です。
広い面を大まかに整えたり、細かな高さを調整したりする場面で使われます。
材料を均一に広げ、次の作業がしやすい状態をつくることが目的です。
ジョレンは、ただ力任せに引けばよい道具ではありません。
地面に対してどの角度で当てるか。
どのくらいの力で引くか。
その違いによって、仕上がりが変わります。
作業する人は、地面の高さの違いや材料の厚みを感じながら、少しずつ調整していきます。
まっすぐに見えても、実際には微妙な凹凸があります。
その小さな違和感に気づけるかどうかが、とても大切になります。
コンクリートを打つ・コテで均す
型枠の中などに流し込んだコンクリートを、決められた高さや形に合わせて広げ、コテを使って表面を整えていく作業です。
コンクリートの表面をきれいに仕上げるだけでなく、必要な高さや勾配をつくることも目的です。
水が流れる場所では、ただ平らにするのではなく、水が正しい方向へ流れるように、微妙な傾きをつけることもあります。

コンクリートは、固まる前に仕上げなければなりません。
そのため、作業中の判断がとても重要になります。
コテを動かしながら、表面が高いのか、低いのか。
勾配がきちんと取れているのか。
そうしたことを見極めながら、仕上げていきます。
このように、平衡感覚が問われる作業にはさまざまなものがあります。
そこで、専務に
「平衡感覚が必要な作業は何がありますか?」
と質問してみました。
すると返ってきた答えは、ひと言。
「全部」
でした。
図面の数字を正しく理解すること。
測量機器で正確に確認すること。
それと同じように、現場で自分の体が感じる違和感を大切にすること。
その感覚が、土木の現場ではとても大事なのだと教えてくださいました。
最後に専務は、
「その感覚は、ジョレンを使っていたら分かる」
とも教えてくださいました。
ジョレンは、簡単そうに見えて、とてつもなく奥の深い作業の代名詞です。
確かに、地面に対する感覚、高さに対する感覚、そして違和感に気づく力が、ジョレンという作業には詰まっているのだと思います。
重機に乗っていても、自分が平衡か分かる
先輩の職人さんと作業をしていると、
「なんで分かるんですか?」
と思わず声が出そうになる場面によく遭遇します。
たとえば、転圧前にジョレンで地面を均しているとき。
少し離れたところから、
「松添、そこは基準より2mm高いと思うわ」
そんな声が飛んでくることがあります。
なんで分かるんですか。
というか、2mmって何ですか。
今はもう慣れましたが、そんなことが現場ではしばしば起きます。
もちろん、計測してみると本当に2mm高い。
それにも、もう慣れました。笑
専務が教えてくださったのですが、赤木組の職人さんは、重機に乗っていても自分が平衡かどうか分かるそうです。
なぜ分かるのか。
そう聞くと、返ってくる答えは、
「感覚」
です。
自分もいつかはそうなれるのか。
今はまだ想像もできない世界ですが、そんな僕も、最近は少しずつ「違和感」を感じる場面が増えてきました。


違和感に気付く
赤木組の日報には、
「現場に入る前、全体を俯瞰で見た時に感じたこと」
を記載する欄があります。
これは、違和感に気付くための訓練だと、専務が教えてくださいました。
毎日続けていると、少しずつ現場の変化に気付くようになります。
「いつもより風が冷たい」
「あんな所に水がたまっている」
「改めて見ると、素晴らしい仕上がりだ」
書き出せばキリがないほど、現場には多くの気付きがあります。
この習慣のおかげもあり、最近は作業中にも、違和感を感じる場面が増えてきました。
専務は、こう教えてくれます。
図面がそのまま立体になるのだから、図面と現場を重ね合わせた時に、本来の線上にあってはいけないものが見えてくる。
それが違和感なんだ、と。
土木の職人を目指して、今で1年が経ちました。
その感覚は、日に日に少しずつ向上している実感があります。
正確な数字を把握すること。
そして、そこで生じる違和感に気付く感性を持つこと。
まだ分からないことの方が多いですが、少しずつ見える景色が変わってきているように感じます。
正確な数字と、自分の中に育っていく感覚。
その両方を大切にしながら、これからも土木の仕事と向き合っていきたいと思います。